2017年1月26日木曜日

マグロやメカジキなど「メチル水銀」を多く含む魚介類を妊婦が食べ過ぎると、生まれた子ども障害を及ぼす可能性

「メチル水銀」を含むマグロを食べると子どもに障害が?水俣病から60年の教訓は活かされているか?

2016.12.29



マグロやメカジキなどメチル水銀を多く含む魚介類を妊婦が食べ過ぎれば、生まれた子どもの運動機能や知能の発達に悪影響を及ぼすリスクが高い――。

東北大チームの疫学調査で、このような事実が判明したと、2016年11月28日付の毎日新聞が報じている。低濃度の汚染でも胎児の発達に影響する可能性を示したのは、日本人対象の調査では初めての研究成果だ。

マグロの過食に注意!妊婦から胎児への悪影響が濃厚に

東北大学の仲井邦彦教授(発達環境医学)らの研究チームは、2002年から、魚をよく食べる東北地方沿岸の母子約800組を対象に、母親の出産時の毛髪に含まれるメチル水銀の濃度を測定し、子ども(1歳半と3歳半)の運動機能や知能の発達を調べ、母子の相関関係を分析した。その結果、毛髪のメチル水銀の濃度は1ppm以下〜10ppm以上を検出。WHO(世界保健機関)によると、水俣病のような中枢神経障害を引き起こす下限値は50ppmだ。

また、1歳半時点で実施したベイリー検査(運動機能の発達の指標)の点数は、毛髪のメチル水銀の濃度が最高レベルの人の子どもの方が、最低レベルの子どもよりも約5%低かった。つまり、高濃度ほど運動機能が低い。さらに、3歳半時点の知能指数は、男児のみ約10%の有意差が見られ、男児の方が影響を受けやすい事実が再確認された。

妊婦はクロマグロ、メバチマグロ、メカジキなどを控えるべきか?

2005年、厚労省は、妊婦に対するメチル水銀の1週間当たりの摂取許容量を体重1kg当たり100万分の2gと発表している。

クロマグロ、メバチマグロ、メカジキ、キンメダイ、ツチクジラの摂取量を週80g未満に、キダイ、ユメカサゴ、ミナミマグロ、クロムツ、マカジキの摂取量を週160g未満とする目安を決定した。

今回の調査では、約2割の母親が、この数値を超えていたことが判明。ちなみに、80gは刺し身なら1人前、切り身なら1切れが目安だ。

仲井教授によれば、これらの目安を守れば胎児への影響は小さい。だが、魚は貴重な栄養源なので、妊婦が魚を断つのは好ましくない。食物連鎖の上位にいるクロマグロなどを避け、イワシ、アジ、サバ、サンマなどの魚種を食べことが大切と指摘している。

さて、この研究では、低濃度のメチル水銀でも妊婦が摂取すれば、胎児の発達に影響するリスクがある事実が確かめられた。だが、重要な点がある――。

影響の受けやすさには個人差があるため、メチル水銀が影響は必ずしも断定できない

影響の受けやすさには個人差があるため、多く摂取した母親の子どもが必ずしも悪影響を受けるとは断定できない。なぜなら、今回の研究成果は、個人レベルではなく、集団として知的障害と判断される子どもの比率が高まる1つの論拠を示した疫学調査に過ぎないからだ。

たとえば、メチル水銀の影響がなくても、知的障害の子どもが産まれる確率は1000人当たり約23人だ。メチル水銀を多く摂取し、ベイリー検査の点数が約5%下がると、運動機能障害の子どもが産まれる確率は1000人当たり約48人になる。

また、子どもの運動能力や知能の発達は、遺伝や教育など、さまざまな環境要因が関わる。しかも、低濃度のメチル水銀と子どもの脳の発達の因果関係は未解明だ。したがって、個々の子どもに知的障害が疑われても、メチル水銀が影響したかどうかは必ずしも断定できない。

メチル水銀が影響した「水俣病」の発生から60年

メチル水銀と聞いて想起されるのは「水俣病」だ――。 

1956(昭和31)年5月。「痛い!」「見えん!」「聴こえん!」……。水俣湾や八代海の周辺住民たちが心身の急変や失調を訴え始めた。四肢末端の感覚障害、運動失調、 求心性視野狭窄(きょうさく)、 聴力障害、知能障害、構音障害(言葉の発音の障害)などの中枢神経系疾患だ。

化学工業会社のチッソ水俣工場が垂れ流したメチル水銀の廃液が水俣湾や八代海に生息する魚介類を汚染し、夥しい住民に甚大な健康被害の惨禍をもたらしたのだ。

さらに9年後の1965(昭和40)年5月。昭和電工がある新潟県阿賀野川流域の住民たちからも悲痛・苦悶の声が響き渡った。

1968(昭和43)年、厚生省(当時)は「チッソ、昭和電工の両工場が排出したメチル水銀化合物が魚介類に蓄積し、その魚介類を食べた住人に発生した中毒性の中枢神経系疾患、それが水俣病である」と認定した。

八代海沿岸で2282人、阿賀野川流域で693人、水俣病被害者救済法による対象者は約3万人

1969年からは認定患者に対して、保健手帳による医療費や通院費などの給付が実施されている。2016年9月現在、水俣病の認定患者は八代海沿岸で2282人、阿賀野川流域で693人。水俣病とは認められていないが、感覚障害などの症状がある救済事業の対象者は約1万人、2009年の水俣病被害者救済法による対象者は約3万人に上る。

10月29日、今年も水俣病の犠牲者を追悼する犠牲者慰霊式があった。遺族を代表して60年前に水俣病で夫を亡くした大矢ミツコさん(90)が祈りの言葉を捧げながら、こう訴えた。

「私のような悲しみは、もう誰にもしてほしくありません。同じ水俣の中で、いがみ合ったりするような苦しみはもう嫌です。チッソは主人に本当に『すまなかった』と思うなら逃げたりしないで、水俣病のことをちゃんと伝えてほしいです」

四大公害病と呼ばれる「水俣病」「第二水俣病(新潟水俣病)」「イタイイタイ病」「四日市ぜんそく」は、戦後社会に課せられた負の遺産だ。高度経済成長に乗じて、産業資本と結託した科学技術の暴走であった。

脳の発育不全、言語障害、運動失調などを伴う胎児性水俣病の悲惨と恐怖

国の公式認定から60年――。国や県による総合的・科学的な健康調査を求める世論は日々高まっているものの、水俣病の被害の全容は未だ見えない。

水俣病の原因物質はメチル水銀だ。だが、その特定は困難を極めた。1958年、熊本大学医学部研究班は、マンガン、セレン、タリウムを疑うが、翌1959年、排水口周辺の海底に堆積するヘドロや魚介類から検出した有機水銀が原因と発表。1968年、幾多の議論や論証の末、メチル水銀と断定された。

メチル水銀とは何か? どのようなメカニズムが健康被害を及ぼすのか? 火山噴火、石炭の燃焼、金の採掘などから産出される水銀は、水中や土壌中で微生物の働きなどによって化学変化し、メチル水銀になる。海水にも含まれるため、食物連鎖によって濃縮し、食物連鎖の上位にいるクロマグロなどの濃度を高める。

メチル水銀は、水銀触媒法によるアセトアルデヒドの製造工程でも、HgSO4(硫酸水銀)から産出される。メチル水銀が水域を汚染し、水域中で超希薄濃度に薄められ、水中に生息する生物間の食物連鎖を経由すると、魚介類の体内で再濃縮される。しかもメチル水銀は、生体に吸収されやすく、生体内で分解されにくいため、高度に濃縮・蓄積し、有毒化した魚介類を日常的に摂取して発症したのが水俣病だ。

先述のように、水俣病の主症状は、四肢末端を中心とする知覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害、構音障害などの中枢神経系疾患だ。大量に摂取すれば、吐き気、嘔吐、激痛、下痢、手のふるえなどの徴候を示す。

だが、さらに恐ろしいのは、母親が妊娠中に摂取したメチル水銀が胎盤を経由して胎児に移行し、発症する「胎児性水俣病」だ。特にメチル水銀は、胎盤通過性が高く、血液脳関門を易々と通過するので、発達中の胎児の中枢神経がダメージを受けやすい。

胎児性水俣病は、脳の発育不全、言語障害、運動失調などの重篤な障害をもたらす。1955年以降に生まれた胎児性水俣病の認定患者は77人。このうち20人がすでに死亡。生存者も体調の悪化のため、療養施設やケアホームなどに入所している。

公式確認からすでに60年を迎えた水俣病.。被害の全容や病気の実態もまだまだ未解明な部分が多い。水俣病の患者・被害者でつくる25団体は12月、東京・永田町の参院議員会館で会見を開き、被害の全容解明に向けた健康調査などを求める署名が約12万6000人分に達したことを明らかにしている。

環境省との意見交換では、佐々木孝治特殊疾病対策室長が健康調査について「最新の医学的知見を取り入れた客観的な調査手法の開発を急いでいる」と述べたと報じられた。

先に紹介した東北大学の調査報告をどうとらえるか? あえて60年たったこの年に発表されたデータに特別な意図はないのか?基礎研究であるから、社会的な事案とは関係ないとはいえないはずだ。この国にとってメチル水銀の影響はきわめて重要な事案なのだ。

水俣病に冒された人たちが負った悲惨な苦渋、非業の死の教訓も鑑みながら、科学的な解明がさらに進むことを望みたい。

(文=編集部)

参照元 : healthpress


魚介類等に含まれるメチル水銀について

1.はじめに
魚介類等に含まれるメチル水銀に関する安全性確保については、厚生労働省が、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品・毒性合同部会の意見を聴いて、一部の魚介 類等について、妊娠している方もしくはその可能性のある方を対象とした摂食に関する注意事項(「水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項(平成 15 年 6 月 3 日)」)を公表した(薬事・食品衛生審議会(1))。

その後、平成 15 年 6 月中旬、第 61FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)において、セイシェル諸島、フェロー諸島等における魚介類等を通じたメチル水銀の胎児期曝露に伴う子供の神経発達に関する疫学研究等の結果を踏まえ、一般集団に対しては従来の評価を適用することを再確認した上で、胎児や乳児がより大きなリスクを受けるのではないかとの懸念からメチル水銀の再評価を実施している。(第 61 回JECFA(2), WHO(3))

今般、厚生労働省が上記注意事項の見直しの検討に当たり、食品安全基本法(平成 15 年法律第 48 号)第 24 条第 3 項の規定に基づき、平成 16 年 7 月 23 日付け厚生労働省発食安第 07230001 号にて、「魚介類等に含まれるメチル水銀について」の食品健康影響評価が食品安全委員会に依頼されたものである。

その具体的内容は、魚介類等に含まれるメチル水銀に係る妊婦等を対象とした摂食に関する注意事項の見直しの検討に当たり、メチル水銀の耐容摂取量の設定を求めるものであ るとともに、あわせて、諸外国の注意事項の対象者の範囲がかならずしも一致していないことから、注意事項の対象者となりうるハイリスクグループについての議論も要請されている。

参照元 : 食品安全委員会 PDF

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