2016年6月1日水曜日

人間の皮膚と同じような感覚を得ることができる人工皮膚が実用化されるのもそう遠い話ではない

人間の皮膚とまったく同じ人工皮膚 ― 髪の毛1本の感覚まで感知可能

2016.04.26

かのスティーヴン・スピルバーグが1982年に世に送り出した「E.T.」、少年と宇宙人がお互いの指を合わせるシーンはあまりにも有名である。近い将来、触感を持ったロボットと「E.T.」のシーンを真似する時代が来るかもしれない。それを可能にする驚きの人工皮膚が、韓国の国立大学によって開発された。米スタンフォード大学の研究とも相まって、人間の皮膚と同じような感覚を得ることができる人工皮膚が実用化されるのもそう遠い話ではないというのだ。

■微細な感覚を感知する人工皮膚が遂に



ロボットや人工知能の研究が進むなか、人間の持つ五感は、小型カメラを搭載したコンタクトレンズ、日々進化を遂げる補聴器などいくつかは工業科学的に再現され、ウェアラブルデバイスとしてポピュラーになりつつあるが、「触感」だけはいまだ未開発であった。人がモノに触れた時に感じる圧力や、温度、微妙な感覚の違いを再現することは非常に困難とされてきたのだ。人間の皮膚に関してはまだ解明されていない点も多く、「ざらついている」や「すべすべしている」といった素材感や手触りについて感知できる人間の皮膚は、科学的にいえば非常によくできたセンサーだとも言えよう。

ところが、韓国のウルサン科学技術大学校のジョンファ・パーク教授率いる研究チームは、このたびとてもユニークな方法による新たな「人工皮膚」の開発に成功した。この技術によって、よりリアルな感覚機能を持った人工器官の製作等、さまざまな分野における驚異的な突破口になるとみられている。事故などによって皮膚を失ってしまった人が、この新しい「人工皮膚」によって、かつてのように感覚を取り戻せる時代がやってくるのだ。

■髪の毛1本の感覚まで感知可能



人間の皮膚には、刺激を感じる「メカノレセプター」と呼ばれる受容器が多数点在していて、圧力がかかるとそれを電気信号として脳に送り、我々は触感を得る。例えば熱いコーヒーの入ったコップを持つという行為では、強く握りすぎてはいけないが、コップを落とさないギリギリのチカラ加減というテクニックを要して手にする、こんなことができるのは実のところ人間だけである。今まで、温度と共に微細に異なる圧力の変化を認識できる人工皮膚の開発は困難を極めてきたのだ。パーク教授の研究チームは、電気を非常に通しやすく、人間の皮膚にある「起伏のある山状」のミクロな溝と同じような形状を持つ薄いフィルムを作り、それを可能にするという。

さらにポリマー樹脂と還元グラファイト酸化物の複合体を加えることによって、フィルムが検知した電気信号を使用し、触感と温度を検出することができるようになるのだ。実験によって、異なる温度の水滴や違う高さから落とした水滴の違いを認識することができ、また髪の毛1本の感覚にまで反応することが確認されている。

■問題は脳への伝達



パーク教授は、「この人工皮膚が実際に人間の手首につけられた時、電気信号によって脈拍や血圧の感知も可能である」、と述べている。国防総省のサポートのもと、スタンフォード大学の研究チームはタッチセンサーで圧力の違いを認知する人工皮膚を開発した。パーク教授の方法と違い、二つの層から構成されており、上の層で圧力を感知し、下の層には神経細胞に電気信号を送るための回路を設置した。問題点は、いかにしてこの信号を脳が受け取るシステムを作るかということである。

最近では、電子信号をLEDに変換し、それを体性感覚皮質にある組織に照射するという方法もマウスを使った実験でその有効性が確認されている。周波数の違いによって脳はその強弱を認識するのだ。しかし、これはまだ実用的ではない。他に、電極を直接差すという方法もあるが、脳へのダメージや倫理的な問題を考えると、実用化はおろかすぐに人体実験するというわけにもいかないという。

スタンフォード大学のZhenan Bao教授は、「神経系の構成要素に検出した圧力を信号として送るのに、皮膚のような柔軟性のある素材を用いた初めての事例です」と述べている。また、「この人工皮膚の実用化に向けて、なすべき課題はたくさん残っています。ですが、我々は何をすべきかということはもうわかっているのです」と付け加えた。

しかし、ロボットだけについて言えば、これらの技術をすぐに適用することができる。そうすれば今までできなかった繊細な作業も可能になるのだ。ますますSF映画『トランセンデンス』のような、ロボットに支配される時代が来るのではないかと気が気でない。

参照元 : TOCANA


スタンフォード大学、触覚をそなえた人工皮膚の実現へ。実験をちょっとくわしく覗いてみよう

2015.10.22 22:00



わくわくする技術の裏側です。

このところめまぐるしい進歩を遂げている義肢技術。さいきんではデザイン性の高いものなどもたくさん登場して、わたしたちを驚かせてくれています。ギズモードでもexiiやウルヴァリンの爪がついたものなど。新しいかたちの義肢を紹介してきました。

とはいえ、義肢技術のなかでもまだまだ発展途上なのが触覚機能。感覚フィードバックがまだ十分ではないことは義肢の未来を考えるうえで大きな壁となっています。義肢のモーターを適切に制御するには、さわった物体がどんなふうに反応したのかを感じられることが重要。それがないと、温度や触感を感じたり、どれくらいの力を物体に与えるべきかを判断することは難しくなるためです。さらに、触感(もしくは触覚を感じたと思うこと)は幻肢痛の原因となることもあり、およそ80%の使用者が影響を受けるとされています。

そんななか、スタンフォード大学の研究チームは物体の力覚情報を受けとって信号を脳細胞に送ることのできる人工皮膚を開発に取りくんでいます。チームを率いるのは電子工学を専門とするBenjamin Teeさんです。

人間の皮膚に人工皮膚が追いつくにはまだまだ時間がかかりそうです。しかし、Teeさんたちの研究は、触覚機能をそなえた義肢の発展にとって大きな一歩になることはまちがいありません。



人工の機械受容器を搭載した伸縮自在の皮膚(Credit: Bao Research Group/Stanford University)

チームが開発した人工皮膚は、新しい圧力センサーとフレキシブルな有機電子回路を使って、静的な物体に触れたときの力覚情報を取得します。今回チームがサイエンス誌に発表した実験では、受けとった力覚情報を光遺伝子学技術をもちいて培養したマウスの脳細胞に送ることに成功しました。

小さなピラミッドからなるセンサー

実験で使ったのは「Ditact(Digital Tactile System)」と呼ばれるシステム。低出力かつ柔軟なトランジスタ回路で受けとった圧力から信号を生成してくれます。まさにわたしたちの皮膚にある機械受容器のような働きをしてくれるわけですね。生成された信号は電圧パルスに変換されます。



「DiTact」システム(Credit: Tee et al., 2015/Science)

研究者は広い範囲で圧力を記録するために、ピラミッド状に形成したカーボンナノチューブを使用しました。

共著者のAlex Chortosさんは米gizmodoへのメールで、次のように話しています。

センサーにはカーボンナノチューブを添加したピラミッド状のゴムを使用しています。ピラミッド間の距離やピラミッドのサイズ、カーボンナノチューブの濃度などを柔軟に変えられる構造は、とても使い勝手のよいものといえます。適切な範囲で、適切な圧力の検知特性を実現できるからです。

このミクロな構造のおかげで、センサーの感度を人間の皮膚受容器にかぎりなく近づけることに成功したといえます。

信号を送る

さて、信号を受けとった後はどうなるのでしょうか。感覚フィードバックをには、脳にそれらの信号を送りこむことが必要です。研究者たちはこれらの信号(0~200Hz)光信号に変換、光ファイバーでマウスの大脳皮質神経細胞に送りました。「DiTact」はまだ開発途上のため、今回の実験で使ったのは生きたマウスの脳ではなく、培養した脳細胞です。



「DiTact」システム (Credit: Tee et al., 2015/Science)

こういった技術はオプトジェネティクス技術と呼ばれるもの。光を受けとると発火もしくは抑制されるように、神経細胞に遺伝子操作を行ないます。たとえば、神経細胞に藻の遺伝子を導入すると青い光に、バクテリアの遺伝子を導入すると黄色い光に反応するようになります。

今回の実験では神経細胞が感覚情報を処理するスピードを考慮して、これまでとは別の方法でオプトジェネティクス技術を応用しています。

生物の機械受容器は1秒ごとに数百もの電気信号を生成することができる。これを踏まえたうえでChortosさんは次のように話しています。

従来のオプトジェネティクス技術では脳細胞を刺激することしかできません。実際の機械受容器を再現するにはあまりにも遅すぎるスピードでした。

Chortosさんが指摘していたのは、Andre BerndtとKarl Deisserothの研究。この研究では従来よりもすばやく脳細胞を刺激することを可能にしています。その速度はなんと機械受容器に匹敵できるほどなのだとか。

Teeさんたちは、光に反応する新しいタンパク質がインターバルの長い刺激にも対応できることをあきらかにしました。つまり、ほかのFS細胞(末梢神経など)にも応用できるかもしれないということ。今後「DiTact」は生きたマウスや人間でも実験されるかもしれません。研究者チームも、次のステップは生きたマウスでセンサーの実験をすることだと話してくれました。

サイエンスフィクションが現実に

ペトリ皿のなかの細胞に信号を送ることができたとしても、それがちゃんとした形で伝わっているのか判断できないんじゃないの?と疑問に思った人もいるはず。Chortosさんはその質問にも答えてくれてます。



わたしたちのセンサーが生きた個体に正しい情報を送れることは、行動キュー(たとえば圧力に対する動物の反応)によってちゃんと証明されています。究極的なテストは人間にセンサーを取りつけて、どんなふうに感じるかを調査することです。ほんとうに自然な感覚を得るには、このデザインをこれから細かく修正していく必要があります。

そして究極のゴールは人間の義肢に人工皮膚をとりつけること。共著者のAmanda Nguyenさんは次のように話しています。

人工的な機械受容器は、ほかの研究者たちが開発している義肢の感覚フィードバックにも、大きな影響を与えるだろうと考えています。わたしたちのシステムを人工義肢に搭載するうえで安全面の懸念は、神経細胞へのパターン刺激とインターフェースでしょう。

Ngyenによると、感覚フィードバックについての既存の研究は十分に将来有望なのだそう。ただし、感覚フィードバックを得るために神経を適切かつ安全に刺激するには、より大規模な人間への実験が必要だと話しています。

刺激パラメーターは理解されはじめています。人工的な機械受容器のアウトプットは、そういった範例にしたがって調整していけるでしょう。今回の実験ではシステムの効率性や安全性がはっきりと示されました。感覚に障がいのある人の生活を向上させる可能性は、十分あるのではと期待しています。神経機能の代替についての倫理的懸念と同じくらいメリットもあるはずです。こういった技術を人間に応用していくことで神経科学への理解が深まり、もっと繊細な感覚の実現が可能になるでしょう。

実際こういった分野の研究は、より安全で倫理的に怪しいものではなくなってきています。オプトジェネティクス技術を安全に人へ応用するには、メスをいれて光ファイバーのワイヤーを脳に接続したり、被験者にウィルスによる遺伝子を操作する必要をなくすことが大切です。

マテリアル・サイエンスとエンジニアリングを専門とするMITの教授Polina Anikeevaさんによると、被験者の幹細胞をもちいて、特定の波長の光に反応するように体外での遺伝子操作を行なうことができるとのこと。さらに、これらの細胞を被験者の末梢神経に再導入し、あとで被験者の神経を刺激することも可能です。このやり方なら、倫理的に危うい遺伝子操作も頭部にとりつけるワイヤーも必要ありません。神経への刺激によって神経細胞を修復したり、人工的なセンサーに繋いだインターフェースも実現できるとAnikeevaさんは話しています。

もちろん、こういった技術が数年後に登場するわけではありません。しかし、Teeさんたち研究者によって、そういったゴールへの道はどんどん開かれつつあるのはたしかです。

George Dvorsky - Gizmodo US [原文]
(Haruka Mukai)

参照元 : gizmodo

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