アルツハイマー病過度のカロリー制限有害
2015年7月15日
アルツハイマー症状が出ている人のカロリー制限は、かえって症状を悪化させる可能性が高いことを示唆する研究結果が、東京医科歯科大学の研究グループによって得られた。過度のカロリー摂取がアルツハイマー症状を進行させるという従来の見方に修正を迫る研究成果として注目される。
アルツハイマー病の患者には、脳神経細胞の外にベータアミロイド、内にタウタンパクというタンパク質の異常蓄積がみられることが分かっている。同大学難治疾患研究所脳統合機能研究センターの岡澤均(おかざわ ひとし)教授らが着目したのは、神経変性疾患の症状を改善するという研究報告が多数ある誘導性オートファジー。オートファジーは細胞が持つ機能で、細胞内異常タンパク、異物などを取り込んで消化してしまうことから自己貪食(自食)とも呼ばれる。ただし、これまで脳組織内では存在するかどうかはっきりしていなかった。
岡澤教授らは、2光子顕微鏡を用いた観察手法で、生きたマウスの神経細胞の中に誘導性オートファジーが実際に存在することを確かめた。さらに飢餓状態では細胞内の誘導性オートファジーの働きは活発化しているものの、細胞外から取り込んだベータアミロイドを十分に分解処理できず、細胞内にため込むことも突き止めた。この細胞内アミロイドの増加はアルツハイマー病で侵されやすい脳内の重要な部位で起こり、実際に神経細胞の一部が膨張して破裂し、ベータアミロイドを周辺にまき散らすことも、観察した。
これらの結果は、アルツハイマー病態に飢餓状態が重なることによって引き起こされる細胞内のベータアミロイドの増加が細胞死につながり、病態の悪化を加速する可能性を示している、と岡澤教授らは見ている。
過度なカロリー摂取などの生活習慣が、アルツハイマー病の進行を速める一因であることはよく知られている。しかし、脳内で細胞外のベータアミロイド濃度がある程度高まった後では、むしろカロリー制限がオートファジーを過度に活性化させ、アルツハイマー病態を悪化させるリスクとなることが今回の研究成果から想定される、と研究グループは言っている。
参照元 : サイエンスポータル
飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見―過度な食事制限はアルツハイマー病を加速する可能性を示唆―
2015年7月14日
国立大学法人 東京医科歯科大学
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
ポイント
長らく謎であった脳神経細胞での誘導性オートファジーの存在を直接的に証明しました。
アルツハイマー病における飢餓状態は病態に悪影響を与える可能性を示しました。
その際に、脳内の重要部位において細胞内ベータアミロイドが増加することを示しました。
神経細胞の内部に生じるアミロイド沈着と神経細胞死の関連をはじめて示しました。
これらの成果はアルツハイマー病の病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。
東京医科歯科大学・難治疾患研究所/脳統合機能研究センター・神経病理学分野の岡澤 均教授の研究グループは、生きた脳の中の神経細胞におけるオートファジーを観察する技術を世界で初めて開発し、アルツハイマー病態におけるオートファジーの新たな役割を解明しました。この研究は平成26年度から始まった文部科学省『革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト』(平成27年度から日本医療研究開発機構へ移管)および平成22~26年度・文部科学省新学術領域研究『シナプス・ニューロサーキットパソロジーの創成』などの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック レポーツ)に、2015年7月14日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されます。
研究の背景と結果の概要
1.アルツハイマー病を初めとする神経変性疾患は、細胞の内外に異常タンパク質が蓄積することが病理学的な特徴です。アルツハイマー病では、細胞外にベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質が沈着する老人斑と、細胞内にタウタンパク質が凝集する神経原線維変化の2つが起こります。一方、異常タンパク質を除去する細胞機構として、ユビキチン・プロテアソーム系とオートファジー系1)の2つの分解系が知られ、さらに、オートファジーには、常に一定レベルで働いている基礎的オートファジー(basal autophagy)とカロリー制限などで活性化する誘導性オートファジー(induced autophagy)があることが知られています。
これまで、誘導性オートファジーが脳以外の組織においては大きな役割を果たすことは知られていましたが、脳組織での誘導性オートファジーの存在が認められないという報告(Mizushima et al, Mol Biol Cell 2004; など)がある一方で、カロリー制限等による誘導性オートファジーが神経変性疾患における異常タンパク質の凝集を除き、症状を改善するとの結果が多数報告されており(Ravikumar et al, Nat Genet 2004; など)、神経細胞における誘導性オートファジーの有無は決着していませんでした。
また、高等動物における誘導性オートファジーには、インスリン受容体からmTOR(mammalian target of rapamycin)を介するシグナル経路が重要と考えられているため、糖尿病や高カロリーがリスクファクターと言われるアルツハイマー病の病態理解の上でも、この決着は重要でした。
そこで本研究では『神経細胞における誘導性オートファジーの有無』を明らかにすることを第一の目的としました。マクロオートファジー2)を特徴付けるオートファゴゾーム3)のマーカー分子であるLC3から作製した融合蛍光タンパク質(LC3-EGFP)を脳内に発現させて、生きたマウスの脳内部でダイナミックに変化するオートファゴゾームを2光子顕微鏡で観察する方法を開発し、脳における飢餓誘導性オートファジーが、神経細胞において実際に存在することを証明しました。
さらに、マウス脳の同じ場所を継続的に観察することにより、脳内のオートファゴゾーム形成に概日リズム(circadian rhythm)があることを発見しました。
2.次に、アルツハイマー病では、オートファジーが病態を抑制するのかそれとも進行させるのか、という特異的な問題点がありました。オートファジーは細胞内の異常タンパク質を除去するシステムであることから、病態を抑制すると思われます。実際、変性疾患の一つであるポリグルタミン病のモデルマウスでは誘導性オートファジーが症状を改善するとの報告があります(Ravikumar et al, Nat Genet 2004; など)。
一方で、アルツハイマー病においては、オートファジー系の膜はベータアミロイド産生の場であり、オートファジーを活性化すると細胞外アミロイドが増加すること(Yu et al, J Cell Biol 2005; Nixon et al, J Neuropathol Exp Neurol, 2005)、アルツハイマー病モデルマウスにおいてオートファジーに必須の遺伝子Atg7を欠損させると細胞外ベータアミロイドが減少するという結果(Nillson et al, Cell Rep 2013)が報告されていました。これらの研究結果は、オートファジーがアルツハイマー病態を進行させることを示唆しています。
そこで本研究では『アルツハイマー病におけるオートファジーの功罪』を明確にすることを第二の目的としました。結果として、アルツハイマー病態では飢餓による誘導性オートファジーが亢進しているものの、エンドサイトーシス亢進によって細胞外から取り込んだベータアミロイドを十分に分解処理出来ず、細胞内にベータアミロイドを溜め込むこと、さらにはこの細胞内アミロイドの増加はアルツハイマー病で侵されやすい脳内の重要部位で起こることが明らかになりました。
また、細胞内にベータアミロイドが増加した神経細胞を詳細に観察すると、一部は細胞が膨張して破裂し、ベータアミロイドを周辺にまき散らす像も得られました。これらの結果は、アルツハイマー病態に飢餓状態が重なることによって引き起こされる細胞内のベータアミロイドの増加が細胞死につながり、病態の悪化を加速する可能性を示しています。
研究成果の意義
本研究により、脳神経細胞においても飢餓誘導性オートファジーが存在し、さらにマクロオートファジー2)の活動性には日内変動があることを示しました。さらに本研究成果は、アルツハイマー病態におけるオートファジーの活性化が細胞外から細胞内へのベータアミロイドの取り込み促進に働くものの、細胞内部でのベータアミロイドの分解処理には不十分であり、むしろ細胞内にベータアミロイドが蓄積して細胞膨張を伴う細胞死につながる可能性を強く示唆しています。今日では、過度なカロリー摂取などの生活習慣がアルツハイマー病進行を早める要素であることが広く認められています。
しかし、脳内で細胞外のベータアミロイド濃度がある程度高まった後では、むしろ、カロリー制限によってオートファジーを過度に活性化することがアルツハイマー病態を悪化させるリスクとなることが、本研究成果から想定されます。これは、食習慣を通じた認知症予防・治療を今後進める際に重要なポイントと考えられます。また、アルツハイマー病のゲノムワイド関連遺伝子解析(GWAS)においてオートファジー関連遺伝子が優位な相関を示していることから(Lipinski et al, Proc Natl Acad Sci USA, 2010)、アルツハイマー病においてオートファジーが機能不全に陥っている可能性も疑われます。この点も、カロリー制限による過度なオートファジー促進がアルツハイマー病の増悪因子となりうることを示唆しています。
また、アルツハイマー病では細胞外のベータアミロイド沈着(老人斑)が有名ですが、細胞内ベータアミロイド沈着についても、2000年に岡澤教授らが細胞内アミロイド沈着を発見(Shoji et al, Mol Brain Res 85, 221-233, 2000, 東京大学・神経内科、金澤一郎教授のもとで行われた成果)して以後、関連する多くの報告が蓄積し、現在では共通認識となりつつあります。
また、近年では細胞内ベータアミロイドが主な所見と考えられるアミロイド前駆体タンパク質の遺伝子変異を持つ家系も日本発で報告されるなど(Tomiyama et al, Ann Neurol 2008; Umeda et al, J Neurosci Res 2011)、病態上の役割も議論されていました。細胞内のベータアミロイドの蓄積に着目した本研究成果を元に、以前報告された細胞内シグナル異常との関係、さらには細胞死の分子機構が明らかにされ、アルツハイマー病の病態理解と治療法開発につながることが期待出来ます。
さらに本研究成果は、細胞内ベータアミロイド蓄積が細胞死を経て細胞外での蓄積のシードとなる可能性も示唆しており、細胞内外のベータアミロイド沈着と細胞内のタウタンパク質沈着を結ぶアルツハイマー病の総合的な理解への布石となる知見とも考えられます。
用語の解説
1)オートファジー:
細胞が持つ自己貪食(自食)の機能。マクロオートファジーでは小胞体由来とも考えられる細胞内の2重膜構造が、ミトコンドリアなどの細胞内小器官、細胞内異常タンパク、異物などを取り込んで、消化酵素を含むリソソームと結合して、消化する。オートファジーの様式には、オートファゴゾームを介するマクロオートファジー、オートファゴゾームを介さないミクロオートファジー、シャペロンタンパク質などを介するシャペロン介在性オートファジーの3つがあることが知られている。
2)マクロオートファジー:
上記の細胞内2重膜構造が細胞内小器官などを取り込み、オートファゴゾームとなったのちに、細胞外から取り込んだ異物を包んでいる膜構造であるエンドソームと融合し、さらには消化酵素を含む膜構造であるリソソームと結合して内容物を分解し、細胞外に放出するとされる一連の機能を呼ぶ。一般にオートファジーという場合はマクロオートファジーを意味することが多い。
3)オートファゴゾーム:
上記の細胞内2重膜構造のこと。自食の対象となるものを包み込む機能がある。
参照元 : 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
関連リンク
東京医科歯科大学プレスリリース「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見-過度な食事制限はアルツハイマー病を加速する可能性を示唆」pdf
×脳のエネルギー源はブドウ糖だけ
◯脳のエネルギー源はブドウ糖とケトン
×血液中のブドウ糖は食べ物からとったもの
◯血液中のブドウ糖は肝臓が合成したもの
2015年7月15日
アルツハイマー症状が出ている人のカロリー制限は、かえって症状を悪化させる可能性が高いことを示唆する研究結果が、東京医科歯科大学の研究グループによって得られた。過度のカロリー摂取がアルツハイマー症状を進行させるという従来の見方に修正を迫る研究成果として注目される。
アルツハイマー病の患者には、脳神経細胞の外にベータアミロイド、内にタウタンパクというタンパク質の異常蓄積がみられることが分かっている。同大学難治疾患研究所脳統合機能研究センターの岡澤均(おかざわ ひとし)教授らが着目したのは、神経変性疾患の症状を改善するという研究報告が多数ある誘導性オートファジー。オートファジーは細胞が持つ機能で、細胞内異常タンパク、異物などを取り込んで消化してしまうことから自己貪食(自食)とも呼ばれる。ただし、これまで脳組織内では存在するかどうかはっきりしていなかった。
岡澤教授らは、2光子顕微鏡を用いた観察手法で、生きたマウスの神経細胞の中に誘導性オートファジーが実際に存在することを確かめた。さらに飢餓状態では細胞内の誘導性オートファジーの働きは活発化しているものの、細胞外から取り込んだベータアミロイドを十分に分解処理できず、細胞内にため込むことも突き止めた。この細胞内アミロイドの増加はアルツハイマー病で侵されやすい脳内の重要な部位で起こり、実際に神経細胞の一部が膨張して破裂し、ベータアミロイドを周辺にまき散らすことも、観察した。
これらの結果は、アルツハイマー病態に飢餓状態が重なることによって引き起こされる細胞内のベータアミロイドの増加が細胞死につながり、病態の悪化を加速する可能性を示している、と岡澤教授らは見ている。
過度なカロリー摂取などの生活習慣が、アルツハイマー病の進行を速める一因であることはよく知られている。しかし、脳内で細胞外のベータアミロイド濃度がある程度高まった後では、むしろカロリー制限がオートファジーを過度に活性化させ、アルツハイマー病態を悪化させるリスクとなることが今回の研究成果から想定される、と研究グループは言っている。
参照元 : サイエンスポータル
飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見―過度な食事制限はアルツハイマー病を加速する可能性を示唆―
2015年7月14日
国立大学法人 東京医科歯科大学
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
ポイント
長らく謎であった脳神経細胞での誘導性オートファジーの存在を直接的に証明しました。
アルツハイマー病における飢餓状態は病態に悪影響を与える可能性を示しました。
その際に、脳内の重要部位において細胞内ベータアミロイドが増加することを示しました。
神経細胞の内部に生じるアミロイド沈着と神経細胞死の関連をはじめて示しました。
これらの成果はアルツハイマー病の病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。
東京医科歯科大学・難治疾患研究所/脳統合機能研究センター・神経病理学分野の岡澤 均教授の研究グループは、生きた脳の中の神経細胞におけるオートファジーを観察する技術を世界で初めて開発し、アルツハイマー病態におけるオートファジーの新たな役割を解明しました。この研究は平成26年度から始まった文部科学省『革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト』(平成27年度から日本医療研究開発機構へ移管)および平成22~26年度・文部科学省新学術領域研究『シナプス・ニューロサーキットパソロジーの創成』などの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック レポーツ)に、2015年7月14日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されます。
研究の背景と結果の概要
1.アルツハイマー病を初めとする神経変性疾患は、細胞の内外に異常タンパク質が蓄積することが病理学的な特徴です。アルツハイマー病では、細胞外にベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質が沈着する老人斑と、細胞内にタウタンパク質が凝集する神経原線維変化の2つが起こります。一方、異常タンパク質を除去する細胞機構として、ユビキチン・プロテアソーム系とオートファジー系1)の2つの分解系が知られ、さらに、オートファジーには、常に一定レベルで働いている基礎的オートファジー(basal autophagy)とカロリー制限などで活性化する誘導性オートファジー(induced autophagy)があることが知られています。
これまで、誘導性オートファジーが脳以外の組織においては大きな役割を果たすことは知られていましたが、脳組織での誘導性オートファジーの存在が認められないという報告(Mizushima et al, Mol Biol Cell 2004; など)がある一方で、カロリー制限等による誘導性オートファジーが神経変性疾患における異常タンパク質の凝集を除き、症状を改善するとの結果が多数報告されており(Ravikumar et al, Nat Genet 2004; など)、神経細胞における誘導性オートファジーの有無は決着していませんでした。
また、高等動物における誘導性オートファジーには、インスリン受容体からmTOR(mammalian target of rapamycin)を介するシグナル経路が重要と考えられているため、糖尿病や高カロリーがリスクファクターと言われるアルツハイマー病の病態理解の上でも、この決着は重要でした。
そこで本研究では『神経細胞における誘導性オートファジーの有無』を明らかにすることを第一の目的としました。マクロオートファジー2)を特徴付けるオートファゴゾーム3)のマーカー分子であるLC3から作製した融合蛍光タンパク質(LC3-EGFP)を脳内に発現させて、生きたマウスの脳内部でダイナミックに変化するオートファゴゾームを2光子顕微鏡で観察する方法を開発し、脳における飢餓誘導性オートファジーが、神経細胞において実際に存在することを証明しました。
さらに、マウス脳の同じ場所を継続的に観察することにより、脳内のオートファゴゾーム形成に概日リズム(circadian rhythm)があることを発見しました。
2.次に、アルツハイマー病では、オートファジーが病態を抑制するのかそれとも進行させるのか、という特異的な問題点がありました。オートファジーは細胞内の異常タンパク質を除去するシステムであることから、病態を抑制すると思われます。実際、変性疾患の一つであるポリグルタミン病のモデルマウスでは誘導性オートファジーが症状を改善するとの報告があります(Ravikumar et al, Nat Genet 2004; など)。
一方で、アルツハイマー病においては、オートファジー系の膜はベータアミロイド産生の場であり、オートファジーを活性化すると細胞外アミロイドが増加すること(Yu et al, J Cell Biol 2005; Nixon et al, J Neuropathol Exp Neurol, 2005)、アルツハイマー病モデルマウスにおいてオートファジーに必須の遺伝子Atg7を欠損させると細胞外ベータアミロイドが減少するという結果(Nillson et al, Cell Rep 2013)が報告されていました。これらの研究結果は、オートファジーがアルツハイマー病態を進行させることを示唆しています。
そこで本研究では『アルツハイマー病におけるオートファジーの功罪』を明確にすることを第二の目的としました。結果として、アルツハイマー病態では飢餓による誘導性オートファジーが亢進しているものの、エンドサイトーシス亢進によって細胞外から取り込んだベータアミロイドを十分に分解処理出来ず、細胞内にベータアミロイドを溜め込むこと、さらにはこの細胞内アミロイドの増加はアルツハイマー病で侵されやすい脳内の重要部位で起こることが明らかになりました。
また、細胞内にベータアミロイドが増加した神経細胞を詳細に観察すると、一部は細胞が膨張して破裂し、ベータアミロイドを周辺にまき散らす像も得られました。これらの結果は、アルツハイマー病態に飢餓状態が重なることによって引き起こされる細胞内のベータアミロイドの増加が細胞死につながり、病態の悪化を加速する可能性を示しています。
研究成果の意義
本研究により、脳神経細胞においても飢餓誘導性オートファジーが存在し、さらにマクロオートファジー2)の活動性には日内変動があることを示しました。さらに本研究成果は、アルツハイマー病態におけるオートファジーの活性化が細胞外から細胞内へのベータアミロイドの取り込み促進に働くものの、細胞内部でのベータアミロイドの分解処理には不十分であり、むしろ細胞内にベータアミロイドが蓄積して細胞膨張を伴う細胞死につながる可能性を強く示唆しています。今日では、過度なカロリー摂取などの生活習慣がアルツハイマー病進行を早める要素であることが広く認められています。
しかし、脳内で細胞外のベータアミロイド濃度がある程度高まった後では、むしろ、カロリー制限によってオートファジーを過度に活性化することがアルツハイマー病態を悪化させるリスクとなることが、本研究成果から想定されます。これは、食習慣を通じた認知症予防・治療を今後進める際に重要なポイントと考えられます。また、アルツハイマー病のゲノムワイド関連遺伝子解析(GWAS)においてオートファジー関連遺伝子が優位な相関を示していることから(Lipinski et al, Proc Natl Acad Sci USA, 2010)、アルツハイマー病においてオートファジーが機能不全に陥っている可能性も疑われます。この点も、カロリー制限による過度なオートファジー促進がアルツハイマー病の増悪因子となりうることを示唆しています。
また、アルツハイマー病では細胞外のベータアミロイド沈着(老人斑)が有名ですが、細胞内ベータアミロイド沈着についても、2000年に岡澤教授らが細胞内アミロイド沈着を発見(Shoji et al, Mol Brain Res 85, 221-233, 2000, 東京大学・神経内科、金澤一郎教授のもとで行われた成果)して以後、関連する多くの報告が蓄積し、現在では共通認識となりつつあります。
また、近年では細胞内ベータアミロイドが主な所見と考えられるアミロイド前駆体タンパク質の遺伝子変異を持つ家系も日本発で報告されるなど(Tomiyama et al, Ann Neurol 2008; Umeda et al, J Neurosci Res 2011)、病態上の役割も議論されていました。細胞内のベータアミロイドの蓄積に着目した本研究成果を元に、以前報告された細胞内シグナル異常との関係、さらには細胞死の分子機構が明らかにされ、アルツハイマー病の病態理解と治療法開発につながることが期待出来ます。
さらに本研究成果は、細胞内ベータアミロイド蓄積が細胞死を経て細胞外での蓄積のシードとなる可能性も示唆しており、細胞内外のベータアミロイド沈着と細胞内のタウタンパク質沈着を結ぶアルツハイマー病の総合的な理解への布石となる知見とも考えられます。
用語の解説
1)オートファジー:
細胞が持つ自己貪食(自食)の機能。マクロオートファジーでは小胞体由来とも考えられる細胞内の2重膜構造が、ミトコンドリアなどの細胞内小器官、細胞内異常タンパク、異物などを取り込んで、消化酵素を含むリソソームと結合して、消化する。オートファジーの様式には、オートファゴゾームを介するマクロオートファジー、オートファゴゾームを介さないミクロオートファジー、シャペロンタンパク質などを介するシャペロン介在性オートファジーの3つがあることが知られている。
2)マクロオートファジー:
上記の細胞内2重膜構造が細胞内小器官などを取り込み、オートファゴゾームとなったのちに、細胞外から取り込んだ異物を包んでいる膜構造であるエンドソームと融合し、さらには消化酵素を含む膜構造であるリソソームと結合して内容物を分解し、細胞外に放出するとされる一連の機能を呼ぶ。一般にオートファジーという場合はマクロオートファジーを意味することが多い。
3)オートファゴゾーム:
上記の細胞内2重膜構造のこと。自食の対象となるものを包み込む機能がある。
参照元 : 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
関連リンク
東京医科歯科大学プレスリリース「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見-過度な食事制限はアルツハイマー病を加速する可能性を示唆」pdf
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◯脳のエネルギー源はブドウ糖とケトン
×血液中のブドウ糖は食べ物からとったもの
◯血液中のブドウ糖は肝臓が合成したもの
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