2018年6月24日日曜日

いまや日本人の死亡原因の2位である心疾患、強烈な苦しみを伴う突然死の代表「虚血性心不全」には予兆がある

日本人の死因第2位「虚血性心不全で突然死」に気を付けろ!

2018/6/17(日) 15:00配信



ピンピンコロリで逝きたい人は少なくない。しかし、死の瞬間にこれまで経験したことのない痛みを味わうのはごめんだ。強烈な苦しみを伴う突然死の代表、「虚血性心不全」には意外な予兆があった。

虚血=血が通わなくなる
「昨日(亡くなる前日)もレストランで一緒にご飯を食べたし、本当に元気だったんだよ。それが突然こんなことになるなんて、信じられない。

朝も元気に食事してたけど、昼ごろから問いかけても返事しなくなって……。我々からすれば突然死ってやつですよ。最後は何もしゃべれませんでした。

(知り合って)45年以上になるけど、病気したことはない。あっけないね。こんな別れがあるのかなあ……」

かの名将、野村克也氏(82歳)は、妻の死について、沈痛な面持ちでこう語った。

「虚血性心不全」――。いまや日本人の死亡原因の2位である心疾患(1位はがん)。

なかでも「突然死」の大半を占めるのが虚血性心不全である。「サッチー」こと野村沙知代さん(享年85)も、最期はこれで亡くなった。

過去にはこんな有名人も、虚血性心不全によって命を落としている。コラムニストのナンシー関氏(享年39)、マエケンこと芸人の前田健氏(享年44)、リポーターの武藤まき子氏(享年71)など。

先日、急死した俳優の大杉漣氏(享年66)も、急性心不全としか発表されていないが、虚血性心不全を起こしていた可能性が囁かれている。

厚生労働省の調査によると虚血性心不全による死亡者数は約10万人('16年)。高齢者はもちろんだが、最近は若い人にも増えているという。

心臓治療を専門とする、すぎおかクリニック院長の杉岡充爾氏が言う。

「虚血性心不全と言えば、昔は高齢者の病気だったのですが、いまはもう50代でも当たり前の時代になっています。

大きな原因は、食生活の乱れや喫煙、社会的ストレス。これにより心臓の血管が傷つき、動脈硬化が進行して心臓への血流が滞ることで起きるのです。現在、糖尿病患者が増えていますが、それに比例して虚血性心不全の死亡者も増加しています」

尋常ではない胸の痛みを伴い、1分で意識を失う人もいれば、30分ほど苦しみ死に至る人もいる虚血性心不全。そもそもどういう病気なのか。

「虚血」とはすなわち、血が流れなくなること。それにより心臓の能力が低下するのが心不全だ。

虚血性心不全は、一般的に知られる狭心症や心筋梗塞を含む。心臓に酸素や栄養を送る冠動脈(血管)が動脈硬化によって細くなってしまい、心臓に運ばれる酸素や栄養が足りない状態になるのが狭心症。血管が完全に詰まって血流が途絶えた状態が心筋梗塞だ。

これらが原因で心臓の働きが弱まることを、総称して虚血性心不全と呼ぶ。

「心臓に血液が行き渡らなくなると、心臓の筋肉は酸素や栄養が不足し壊死します。心臓のパワーが落ちて、全身に血液を送ることができなくなる。これが『虚血性心不全』です。最終的には、心臓が止まり死に至ります」(前出・杉岡氏)

たとえるなら、心臓は車のエンジンと同じだ。車はエンジンや電気系統に問題がなく、ガソリンがエンジンに運ばれることでスムーズに走ることができる。

このガソリン=血液がちゃんとエンジン=心臓に流れないと虚血状態になり、エンジンに異常が起これば心不全、電気系統の異常が不整脈となる。

心臓とは血液=酸素を全身に送るためのポンプでもある。このポンプの不調により、体のさまざまな部分に必要な酸素が送れなくなる状態が心不全だ。大西内科ハートクリニック院長の大西勝也氏が語る。

「心臓が十分な酸素を送れない場合、心臓は送り出す血液の量を増やそうと頑張ります。ただ、そもそも心臓が弱っているので、血液をうまく送り出せないわけです。そうすると心臓の上流に血液の渋滞が起こります。

心臓の上には肺があるので、そこへ水が溜まっていきます。水が溜まって肺の酸素交換の能力が低下し、酸素がうまく取り込めず息苦しくなるのです」

健康診断では分からない
心臓は、少々無理をしてでも動き続ける臓器なので、意外と異常に気がつかない。そのため一見、元気な人でも、ある日突然亡くなってしまうことがあるから厄介だ。

「虚血性心不全は、健康診断ではなかなか見つけにくい病気です。心臓に負荷がかかっていない状態、安静にしている状態では、心臓もたいして働かないので、冠動脈が細くなり虚血状態になっていても自覚症状はありません。日常生活だけなら、少ない血液の流れで十分やっていけるんです。

ところが運動時になると大量の血液(酸素)が必要となるため、虚血状態の方は、心臓に十分な血液を送ることができず酸素不足となります。そのためすぐに息切れしたり、胸が苦しくなったりする。

運動時に心電図をとることができれば異常が出るのですが、通常の健康診断でそんなことはしないので『異常なし』と見逃されることが非常に多いのです」(前出・杉岡氏)

心臓の場合、血管が元の50%~60%くらいまで細くなっても、なかなか症状が出ず、100%近く細くなって初めて症状が現れるケースも多い。

自覚症状がないまま、ある日突然命を落とす……「ポックリ逝けるならいいじゃないか」と思うかもしれないが、亡くなる瞬間の痛みや苦しみは、筆舌に尽くしがたい。できることなら避けたいが、発症を事前に予測するのは難しいのが現状だ。

とはいえ「予兆」がまったくないわけではない。じつは虚血性心不全には、意外にも「夜間頻尿」が関係しているという。

北上中央病院副院長で泌尿器科の菅谷公男氏は「夜に何度もトイレで目が覚める人は、注意が必要です」と語る。

「自覚症状のない虚血性心不全が夜間頻尿を引き起こしている場合もあります。慢性の心不全になると、心臓の負担を少しでも減らすためにBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)という排尿を促進するホルモンが分泌されます。

そのためトイレが近くなってしまうのです。つまり心臓に問題を抱えている人は、夜間頻尿である可能性が高い」

「むくみ」も予兆の一つ
実際、夜間頻尿のある人は、虚血性心不全や脳梗塞などの血管疾患が発生しやすく、生存率が低くなることがスウェーデンの研究機関の調査で確認されている。



「また、高齢者になれば唾液の量が減るので、のどが渇き、ついつい水を飲みすぎる傾向がありますが、できるだけ水分は控えたほうがいい。

血液がサラサラになり、脳梗塞や心筋梗塞が予防できると信じて就寝前や夜間にたくさんの水分を摂る方がいますが、科学的根拠はありません」(前出・菅谷氏)

水分を摂りすぎると、当然手足に「むくみ」がでてくる。このむくみも虚血性心不全の予兆の一つとなる。

「むくみがひどい場合は、心臓に問題を抱えている可能性があります。心臓のポンプ機能が低下すると、より多くの血液が必要になるので、体が水分を溜め込むようになる。それがむくみの症状となって現れるのです。

寝ると人間の体はリラックスします。すると組織の間に逃げ込んでいた水(血液)が血管に戻る。戻った水は尿として体外に排出しようとするので、夜間頻尿になるのです」(前出・大西氏)

対策として就寝前の「足上げ」が効果的だという。やり方はいたって簡単。仰向けになり、枕、椅子、クッションなどに両足を乗せるだけだ。

「ポイントはひざ下からふくらはぎの部分を乗せることです。就寝前にこの姿勢をとることで血の巡りが良くなります。心臓や血管のポンプ機能が改善され、虚血性心不全の予防効果も期待できます」(前出・菅谷氏)

夜間頻尿に加えて、胸の痛みを感じる人は特に注意が必要だ。

5分ぐらい胸全体がグーッと締め付けられるような痛みが、虚血性心不全の特徴だという。「1週間痛みが続く」、「毎日、胸が痛い」場合は、虚血性心不全ではなく、別の病気の可能性が高い。

「朝の通勤時に、駅まで10分ぐらい歩いていたら締め付けられるような胸の痛みを感じた。でも、我慢して歩き続けていたら平気になって、『さっきのは何だったんだろう』と思う。予兆としては、これが一番多いですね。

怖いのは、血管の壁のパンパンに張ったプラーク(動脈硬化病巣)が破れたときです。そうすると、切れたところから内出血を起こし、血の塊ができ、一気に詰まってしまいます。

でも、それまでは血が流れているので症状は出ません。いわゆる『潜病』の状態です。ある日、その爆弾がドンと破裂して、虚血性心不全で死亡してしまうのです」(前出・杉岡氏)

歩くのが遅くなったなど、運動時に異常がある場合は、虚血性心不全の予兆かもしれない。

手足の冷えにも注意
なんとか検査によって、その兆候を見つけることはできないものか。



「プラークというのは、心臓の冠動脈だけにできるわけではありません。ですから、ほかの血管の状態をみることで、ある程度、予測することはできます。

僕らがよく検査をするのは頸動脈です。頸動脈にプラークがたくさんある人は、心臓の血管にもプラークが多い。これは『頸動脈エコー』という検査で簡単に診ることができます。

一般的な健康診断には含まれていないことが多いのですが、60歳を過ぎたら絶対にやったほうがいいと思います」(前出・杉岡氏)

胸の痛みに加えて、こんな予兆もあると、みなみ野循環器病院院長の幡芳樹氏は指摘する。

「左肩が痛い、腕がしびれる、みぞおちが痛い、歯やあごが浮く感じがすると訴えて来院される方もいらっしゃいます。

胸に症状がまったくない人は心疾患の可能性は低いですが、同時に胸が痛む人は、虚血性心不全の予兆かもしれないので、検査をおすすめします。

高齢者の虚血性心不全の場合、腹痛や腹部不快感を抱いたり、全身の熱感や発汗が強くなったりする人もいます。これは心臓の働きが悪くなり、それを防ぐために自律神経の交感神経が作動して闘争的な生理状態となるためです」

他にもいびきがひどい「睡眠時無呼吸症候群」の人などは、虚血性心不全のリスクが上がる。さらに手足の冷えも心臓に関係しているという。

「心臓の動きが悪くなり酸素が足りなくなると、優先的に脳や肝臓など重要な臓器に回されるように人間の体はなっています。結果、手足への酸素供給が少なくなり、冷たくなってしまうんです」(前出・大西氏)

これらを放置しておくと最悪の場合、虚血性心不全に発展する可能性も十分ある。一度、ページ末のチェックリストを参照してほしい。

「虚血性心不全は、成人であれば誰でもなる可能性があります。動脈硬化は若い人でも少なからずあるものなので、それをいかに管理していくかが重要です。

当たり前ですが、生活習慣を見直し、内臓脂肪を減らす。ウォーキングなど有酸素運動を毎日続けることが一番の予防になります」(前出・幡氏)

最期に苦しまずに逝くためにも、自分の身は自分で守るしかない。

「週刊現代」2018年3月31日号より

参照元 : 週刊現代

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